その1 一日め それは朝一番の電話から始まった

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うーんと考え込んだ裕の様子を、夫は気遣わしげに見守る。 「とにかく、今日の予定はキャンセルしたことだし。明日から母さんの容態が安定するまで、実家の手伝いに通おうと思うんだけど、いいかしら」 「ああ、もちろん」 問う妻に、いわずもがなと言った様子で夫は返答する。 「今日はいいのか?」 「そうね……。夕ご飯の仕度か、お届けはやった方がいいと思う?」 「いいと思う」 「その時は私も行く!」 娘は両親の会話に割って入った。 「ねえ、いいでしょ。おかあさんの邪魔しないし、手伝えるし。いいよね?」 「あら、あなた、明日はテーマパークへ行くって言ってなかった?」 その通り。 開園三十周年記念に湧くテーマパークへ行く算段はすでに整えられていて、ホテルの手配もチケットもしっかり用意して、あとは当日を待つばかりだった。 「行けないよ、おばあちゃんが心配なのに、遊びに行っても楽しくない」 「マナが予定を変えたと聞いたら、おばあちゃんの方が気に病むんじゃないかな」 という父へ、 「治ったらいっくらでも遊びに行けるもん。だから、明日は行かない!」 娘は即答する。 なおも言い募ろうとした娘の繰り言は、母の携帯電話から鳴る着信音に遮られた。 「秋良からだわ」 そう言って、裕は受信ボタンを押した。
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