その1 一日め それは朝一番の電話から始まった

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◇ ◇ ◇ 「今日の集まりはキャンセルさせて!」の連絡を叔父夫婦の携帯電話宛にそれぞれメールで入れて、裕は実家へ向かう準備に大わらわだ。 服は……いい、近所だし。動きやすい服装の方がいいわ。 化粧は……いいわ、それどころじゃない。けど、すっぴんというわけにもいかず、軽く口紅はひいておしろいをはたき、髪を手癖でなでつけた。 「おばあちゃん、平気なの、お見舞い、行かなくていいの」 娘・愛美は眉をハの字にして母にまとわりつく。 「おじいちゃんの電話だけじゃわからないから、とりあえず行って様子見てくるわ、だからその後にどうするか考えましょう」 「ねえねえ、私も一緒に行くよう」 「今はここで待ってて。大丈夫そうなら連絡するから」 「うん……」 母の後を金魚のフンのごとくつきまとった娘はうつむいた。 「親父さん、相当きてるんだろ」 夫は妻に言う。 「うん、すごーく落ち込んでる」 娘には甘く、孫娘にはさらに甘く、そして婿には冷たい、予想通りの反応をしてくれる舅がしおれている姿は、普段なら意地悪く見てみたいと思う裕の夫も、姑に頼り切ってる人のこと、困っているどころではないはずだ、という気遣いは働く。 「いつでも出れるように用意してるから。何かあったら連絡してくれ。なくても一報入れてくれ」 「うん、ありがとう」 「気をつけて」 いつものように、夫と出掛けのキスをして、裕は自宅を飛び出した。
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