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朝刊を新聞受けから抜き取って、からりと引き戸を開けて家に入ると、飼い猫・コムギが猫らしからぬ声を上げて裕の足元にまとわりついてきた。
ごはん下さい、と訴えかけている。
ホント、父さんは母さんがいないとダメな人だわ。
猫を抱き上げて裕は居間に向かう。そこには。
「……裕か?」
一気に老け込んだように見える父、政が肩を落として座っていた。
「うん、おはよう」
「うん……」
「母さんは?」
「うん……」
「寝込んでるの?」
「いや、寝てはいないんだが」
「ちょっとお父さん、しっかりしてよ!」
「本当に。大袈裟なんだから」
台所側から声がする。
のれんをまくりながら入ってくる、母、加奈江の声だ。
「母さん???」
「裕、いらっしゃい」
面長の顔を少し傾けて加奈江は娘に声をかける。
何だ、普段とかわりないじゃない。
裕はちょっと拍子抜けして、「う、うん」とうなずく。
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