その1 一日め それは朝一番の電話から始まった

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朝刊を新聞受けから抜き取って、からりと引き戸を開けて家に入ると、飼い猫・コムギが猫らしからぬ声を上げて裕の足元にまとわりついてきた。 ごはん下さい、と訴えかけている。 ホント、父さんは母さんがいないとダメな人だわ。 猫を抱き上げて裕は居間に向かう。そこには。 「……裕か?」 一気に老け込んだように見える父、政が肩を落として座っていた。 「うん、おはよう」 「うん……」 「母さんは?」 「うん……」 「寝込んでるの?」 「いや、寝てはいないんだが」 「ちょっとお父さん、しっかりしてよ!」 「本当に。大袈裟なんだから」 台所側から声がする。 のれんをまくりながら入ってくる、母、加奈江の声だ。 「母さん???」 「裕、いらっしゃい」 面長の顔を少し傾けて加奈江は娘に声をかける。 何だ、普段とかわりないじゃない。 裕はちょっと拍子抜けして、「う、うん」とうなずく。
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