その1 一日め それは朝一番の電話から始まった

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「お父さんが何か大騒ぎしたんですって?」 「そうよ、倒れたって言うから。叔父さんにもメールしちゃったんだけど。大丈夫なの」 「そうね、あまり、大丈夫じゃないわ」 よっこいしょと言いながら座って、「お父さん、お茶」と言いつつ加奈江はお盆から茶托を渡す。 具合悪いって言ってる人に茶の仕度させるの? お父さんってば、何やってるの! 老け込んで見えたのは、大騒ぎして私に電話したことを母さんに叱られたから? それとも心配で気落ちしてるの? わかりにくいわーっ!! 頭を振りつつ、裕は母に問う。 「何があったの、って聞いてもいい?」 「ちょっとね、病気にかかってしまって」 「はあ?」 「帯状疱疹っていうの。知ってる?」 「知ってる!」 子供の頃に罹るのが水疱瘡。大概はその際に免疫ができ、再発することはない。しかしウイルスは体内に残り続け、それが中高年に入ると悪さをすることがある。痛みを伴う帯状の皮膚炎が身体の片側にでき、完治に時間がかかると神経痛に移行する。そうなるとやっかいとされる病気だ。 発症の原因の大半は、ストレスに起因するとされている。 ストレスの元は……父さんじゃないの??? 娘は口にしそうになり、母に目でたしなめられた。
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