その1 一日め それは朝一番の電話から始まった

8/15
前へ
/59ページ
次へ
おそらく病院でも同様の指摘を受けたようで、妻の発症に驚いた父には耳が痛いことこの上なかったようだ。 「知り合いでも罹ってる人が何人かいたけど、話に聞くところによると相当痛むらしいよ。どうなの?」 「早期だったからね。きちんとお薬はもらっているわ。今のところは平気。でも完治するまで時間がかかるんですって」 やっかいねえ、痛いのはいやだわ、苦手だもの、とため息をつく母は、ゆるゆると茶を飲んでいる。 「静かにしていればさほどでもないけど、ちょっとね、しんどいから。だからね、せっかくだけど今日の集まりはなしにさせてもらいたくて父さんに連絡頼んだのだけど」 尾鰭端鰭ついてしまったようね、と口には出さず、母は父の方を見やる。 父の口ぶりから、今すぐどうにかなってしまいそうな様子だったから慌てたのだが。思えば父は母のこととなると何事も大袈裟に捉えてしまう。 盛大に褒め、喜ぶのだから、逆の場合もしかり。 数週間の間、父はしおれて母の様子を気遣い、看病をするのだろうか。 ま、たまにはいいわよね。 何から何まで母さんに頼りっきりの父さんなんだもの。 良い機会だわ。母さん孝行だと思ってがんばってもらいましょう。 肩から力を抜いて、裕は言う。 「ご飯の仕度とか、お洗濯とか。できることはない? 仕事も一段落付いたところだから、時間の融通がきくの。皮膚炎が落ち着くまで手伝えることなら何でも言って」 「ありがとう」 加奈江は普段より小さな、力が入らない声で言う。 「娘がいるのってやっぱりいいわね、その点男性はいざという時に何の役にも立ちゃしません。大騒ぎするばかりでねえ」 「う」と言葉につまり、ますます小さくなって、父は言った、「すまん」と。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加