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ビルを出て、裏ビルとの間にあった、暗くて狭い路地へ逃げ込んだ。
横を通り過ぎる自動車の無数のヘッドライトが背中を照らす懐中電灯を想起させ、またもや僕の不安を促す。
一分ほどしゃがみこみ、耳を澄ましたが“人物”の足音は聞こえてはこなかった。
この時、僕は神様に助けを求めていた。
それに気づいた時、なんて都合のいい人間だと僕は自分を貶めた。
嫌がる少女を成人男性の力に任せて強姦して、挙句の果てには自分の保身の為だけに神様をすがる。
なんという人間だろう。
人間の屑という言葉が、こんなにも自分に当てはまることが、とても納得できてしまうことが、情けなかった。
しばらく自己嫌悪と全身を駆け巡る安心感で体を休ませていると、少女が突然に口を開いた。
どんな罵詈雑言が飛び出るかと身を構えたが、むしろ逆であった。
「すみません」
消え入るような声で云った。
すみません、と。
「あ、エッ」
僕は困惑して、間抜けな声をもらした。
「すみません、少し寒い・・・です」
そのとき、僕は少女を半裸のまま寒空の下に連れ出していることに気がついた。
慌てて僕のコートを被せてやる。
「ごっ、ごめんな」
「いえっ、すみません」
今、少女はすみませんと遠慮したのだ、この僕に。自分をレイプした男に遠慮をする。
なんということだ。
僕はこんな少女を汚してしまったのか。
僕は少女を目の前に座らせた。
少女は不思議そうに僕を見た。なんて純粋な目を向けるのだ。僕は堪らなくなって、地に頭と手をつけた。
ごめんなさい、という言葉をひとつ、ふたつ、と腹の底から必死に絞り出した。
少女への、そして自分自身への涙でくしゃくしゃになっている僕には、少女にその言葉を正確に伝えられたかどうかは解らない。
ただ少女は体を震わせながら、はにかみながら僕に言う。
「大丈夫ですから」「本当に」「大丈夫ですよ」
この時、僕は本当に、心から、少女に惚れてしまった。
一部・了
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