ぼく

2/2
前へ
/7ページ
次へ
ぼくはお金を持ってコッソリ家を出て、秘密の通り道を走った。 車のひかりがぼくを照らして、誰かがぼくを見てるんじゃないかと思ってしまう。 一刻も早く、お金を置いて、すぐ帰らないと。 細い通路に入っていった時、ぼくは驚いた。人が居る。 どうしよう、通れないじゃないか。戻って大通りから行くのも怖いから、ここを通るしかないんだけど…。 声をかけてみようかな。相手は大人だけど、ぼくは早く帰りたいんだ。やってみよう。 「あのぉ。通らせてもらえませんか…?」 すると相手は体をビクッと震わせて、ぼくのほうを向いた。その顔にぼくは驚いた。 「店主のおじさん?」 「ああっ。そのっ。ごめんなさい…って、あれ?君は確かウチによく来る子…?」 これはラッキーだ!まさかここで会えるなんて。 「ぼく、お昼に駄菓子を買ったので、のこりのお金、渡しますね」 「はあ。あれ、でも閉まってなかったの……?」 「いや、開いたままでしたよ。というより、いつも開いたままなんでしょ?」 おじさんのまぶたが、少し開いた気がした。もっとも、暗闇の中でそんなことは取るに足らないことだけど。 でも、なんだろうか、変な感じがした。 「ああ、そうだね。いつも開けてあるよ。今は夜だしね、ちょっと心配になっただけだから」 「そうですか。それじゃ、ぼく、行きますね」 こんなにラッキーなことはない。神様、ありがとう。 お金はちゃんと渡したし、ぼくはもう帰らなくちゃならない。両親に見つかったら大変だからだ。 「そうか。気をつけて帰ってね…」 おじさんの言葉を背に受けながら、ぼくは走った。 そういえば、なぜ、おじさんはあんなところに居たんだろう。 大通りの道を避けて、人目のつかない、細い道に居たんだろう。 まるで、さっきのぼくみたいだなあ。 もしかして。 無数のヘッドライト達は、ぼくを一瞬照らして、興味がないように走り去っていった。 二部・了
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加