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ぼくはお金を持ってコッソリ家を出て、秘密の通り道を走った。
車のひかりがぼくを照らして、誰かがぼくを見てるんじゃないかと思ってしまう。
一刻も早く、お金を置いて、すぐ帰らないと。
細い通路に入っていった時、ぼくは驚いた。人が居る。
どうしよう、通れないじゃないか。戻って大通りから行くのも怖いから、ここを通るしかないんだけど…。
声をかけてみようかな。相手は大人だけど、ぼくは早く帰りたいんだ。やってみよう。
「あのぉ。通らせてもらえませんか…?」
すると相手は体をビクッと震わせて、ぼくのほうを向いた。その顔にぼくは驚いた。
「店主のおじさん?」
「ああっ。そのっ。ごめんなさい…って、あれ?君は確かウチによく来る子…?」
これはラッキーだ!まさかここで会えるなんて。
「ぼく、お昼に駄菓子を買ったので、のこりのお金、渡しますね」
「はあ。あれ、でも閉まってなかったの……?」
「いや、開いたままでしたよ。というより、いつも開いたままなんでしょ?」
おじさんのまぶたが、少し開いた気がした。もっとも、暗闇の中でそんなことは取るに足らないことだけど。
でも、なんだろうか、変な感じがした。
「ああ、そうだね。いつも開けてあるよ。今は夜だしね、ちょっと心配になっただけだから」
「そうですか。それじゃ、ぼく、行きますね」
こんなにラッキーなことはない。神様、ありがとう。
お金はちゃんと渡したし、ぼくはもう帰らなくちゃならない。両親に見つかったら大変だからだ。
「そうか。気をつけて帰ってね…」
おじさんの言葉を背に受けながら、ぼくは走った。
そういえば、なぜ、おじさんはあんなところに居たんだろう。
大通りの道を避けて、人目のつかない、細い道に居たんだろう。
まるで、さっきのぼくみたいだなあ。
もしかして。
無数のヘッドライト達は、ぼくを一瞬照らして、興味がないように走り去っていった。
二部・了
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