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「もぉーー!!!雨なんか大ッ嫌い!!!」
女は朝起きてからずっとそのセリフばかり吐く。
鏡の前にかれこれ30分も立っている。
昨日の眠りにつく前から、明日は可愛くおだんごヘアーにしようと決めていたのだ。
曲げるわけにはいかない。
「腕が疲れたぁー!誰かやってぇー!」
女がそう叫ぶも、周りには男しかいない。
それも丸刈り頭ばかりの暑苦しい男たち。
「すいやせんがお嬢、俺たちには無理です」
「知ってるわよ!!だから早く蝶姉呼んできて!!」
「へ、へい!!!」
女に叱られた男は慌ててその場を離れる。
女の世話係を呼びにいったのだ。
―――何せ、女は極道の娘。わがままは今に始まったことじゃないが、なるべく機嫌を損ねないようにしないと何をされるかわからない。
それを恐れて、今日も従う男たちであった。
「もう梅雨なんて嫌!湿気で髪の毛もまとまんない!」
「はい…」
「アンタたちはいいわよね!ハゲだから!」
「いや、これは角刈りで……」
「何よ!!!」
「い、いえ!なんでも!」
頬をぷうっと膨らませるのが、女のイライラしている証拠。
幼い頃からわがままだったため、癖になってしまったのだ。
「あら。そんな顔をしていては可愛い顔が台無しですよ」
「蝶姉!」
自分の自慢すべき美しい世話係の声に、ようやく機嫌が戻り始める。
藍色の着物を着たその世話係は艶のある髪を見事に結い上げ、涼しげな顔をしている。
「今日はおだんごよ!」
「はいはい。わかりましたから、とりあえずパジャマを着替えましょう。パジャマで学校に行くおつもりですか?」
その世話係は見事、女の機嫌を直すことが出来たのであった。
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