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「なぁ、志野くん」
「なんだい?」
「君にこの卵焼きをあげるので、今日ついて来てほしい」
お箸で卵焼きをぶっさして、志野くんに突き出す。
一瞬、キョトンとした志野くんだったが、次の瞬間にはニコリと笑いその卵焼きを口に頬ばった。
「別に行ってあげてもいいけど、行ってもいいか決めるのはその政宗さんって人じゃない?」
「あ」
「卵焼き1つ分、損したね」
もぐもぐと口を動かす志野くん。
「てか、いつまで名字呼びしてんの?」
「え、呼び捨てしていいの?」
「こんなに親しいのに、名字呼びって逆に変だよ」
「それもそうか」
メインのプチハンバーグを小さく割って、口に入れる。
そうだな……確かに志野くんの言う通りだ。志野くんも俺のこと、千明って呼んでるし、ゆーたも志野くんのこと"シノっち"て呼んでるし……。
よし。そうしよう!
「――名前なんだっけ?」
「千明のそういうとこ好きだよ」
「それは勘弁」
「志野大雅。志す野原に大きな雅」
「うわ、なんか腹立つ」
めっちゃカッコ良く自己紹介してきやがった。
なんだよ、大きな雅って。くそ綺麗じゃねぇか。
俺なんか、衿の原に千の明るい……だぜ?超意味わかんねぇー。
「じゃ、大雅でいいや」
「今更だけど、よろしくね」
「ほんと、今更だわ。よろしく」
ちょっと遅めの挨拶。
でも、俺にはこれがちょうどぴったりなのかもしれない。
雨の止んだ空を見れば、遠くの方で虹がかかっていた。
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