第1章

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『葉山高校学生チャットログ』 199905261922 やほーみんなのアイドル美香ちゃんだぞ☆ 199905261923 あれ、みんなまだ来てないのかな? 199905262104 また沸いてるよ 199905262122 ゴキブリかよ。バルサンバルサン 199905262127 ほい、バルサン 199905262301 小林の授業はクソ 199905262307 何をいまさら 199905262309 こんばんわ 199905262309 こんばんわ^^ 199905262310 どうしたみんな(笑)突然あいさつとか始めて 199905262312 ああ、すいません。俺はじめてこのチャットを見てみたんです 199905262317 新人くんね 199905262321 いらっしゃい 199905270000 なあ、口を縫い付けられた女の話があっただろ。聞いた話なんだが、あれを見たって言ってる奴がいたんだが。やっぱり体育倉庫の途中の渡り廊下らしい。口の縫い目を見てすぐに逃げ出したから、それ以上のことは知らないそうだ。 199905270017 長文おつかれ 199905270234 またかよ 199905270411 そもそもなんで渡り廊下に一人で行くんだよ。おかしいだろ 199905270547 たしかに。あそこはほんと何もないからね ★★★  五月も終わりに近づいたころ、少し気の早い雨雲が空を覆ってしまった。  土砂降りの雨が窓を濡らし、屈折した光のせいで外もろくに見られない。せっかくの窓際も、こうなっては壁と変わりなかった。  誰もが五月病を引き摺って、恨めし気に空を見る。  俺たちのクラスに彼女が転校してきたのは、そんな憂鬱な時期だった。 「おーい、みんな。転校生を紹介するぞ」  若いのに髪の毛が薄い担任は、やけに機嫌がいい。  彼はロリコンだというもっぱらの噂なので、転校生というのは美少女なのかもしれない。 「おい」  後ろを見ると、最近よく話す友人が身を乗り出してきた。  名前は|篠原幸樹(しのはらこうき)といって、たとえ授業中でも気になることがあればすぐに話しかけてくる。  彼も担任の様子から思うところがあったのかと思ったが、そうではないらしい。 「こんな時に転校生って、なんか変じゃないか?」 「……どういうこと?」 「まだ始まって二か月も経ってないんだぜ。簡単に学校が変えられるんなら、だれも受験勉強なんかしねえよ」  篠原の言うことはもっともだ。  しかし、現実として転校生はいる。だからこそ「変」というあいまいな言い方だったのかもしれない。 「入ってきなさい」
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