scene1「半身の世界」

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噂話。 確かに周防はそう、一切の冗談を交えずに、冗談のように言った。 人から人へ、口から耳へ、耳から口へと語り継ぎ、語り告ぐものだと。 赤ナイフ。 どうにもこうにも、陳腐(ちんぷ)である。 少なくともこの頃の僕はそう考えていた。 だから、僕は言ってしまったのだ。 後になって悔いた。 今になって惜しんだ。 後にも先にも役にも立たない後悔だ。 だって、そうだろ? まさかこのやり取りが伏線になるなんて、思いもよらず。 一片すらも――思うことも、せず。
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