scene1「半身の世界」

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あちらの言葉が届くなら。 また、こちらの言葉も届くはずだ。 だが、この時点、この場面においては、そんな当たり前の理屈すら通らない。 何キロも離れているビルからの狙撃のような、一方通行。 一方的な暴力。 来れど行かず。 事実による、暴力。 「巻き込まれて、いる?」 反芻(はんすう)。それしか出来なかった。 反射。そうとしか言い様の無いなぞり直し。 半拍。それだけ置いて、彼女は答えた。 「ええ、もう君は渦中にいるの」 そこで言葉を切って、後から大袈裟に、付け足すようにして、 「現代怪奇譚、『赤ナイフ』の渦の中にね」
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