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「掘り出し物? 物件にそんなのないよ、大体が問題あるところだ」
「いいの、何かしらあっても」
「お前、予算いくらのところ借りるつもりなの?」
「うーんと一万五千円くらいかなぁ。できたら管理費込みで」
「ないだろ。東京でそんな物件」
最寄駅の傍から少し歩いたところに前に借りた不動産屋がある。僕らはそこへ向かった。
店の佇まいを不審なものでも見るように隆二は見上げた。
もう築40年は経ってるだろうと思われる、木造の建物の入口の引き戸は立て付けが悪くなっていてなかなか開かない。全く客を受け入れようという姿勢がない。
「こんにちは」
僕が声を掛けると中からやぁやぁと呑気そうな男が出てきた。
「あーあなた春原さん」
「はい」
「ここに来たってことは、また、アレ目当てかな?」
「はい」
「あれ目当て?」
隆二さんが怪訝そうな顔をする。
「ちょっとそこ、座って待っててね」
呑気な50代くらいの親父は待ってましたとばかり、物件を探してきて僕の前に差し出した。
「ええと、これは火事、これは事件が厄介なところ。そうだなこの自然消滅系がいいんじゃないかな? 値段もほら、築四十五年アパート一階北側トイレ共同」
「うーん。そうですねぇ」
そんな会話をしていると、いきなり隆二さんが僕の腕を引き「すいません、出直してきます!」とおじさんに告げて僕を引っ張るように店を飛び出した。
「隆二っ、腕っ、痛い痛いっどうしたの?」
「どうしたのもクソもあるか! そんなところに住まわせられるか! お前はー!」
近くにある公園のベンチで僕らは黙って腰掛けていた。
「なーあ。一緒に住むんじゃダメなのか? 守ー僕のところにこいよ」
「でもー僕には過ぎたところで」
「何慎ましいこと言ってるんだ。なぁ、まもるぅー一緒に住もうよー」
隆二が僕に体を傾けて体重をかけてくる。
「重い重いっ!」
「僕の愛の重みー」
まったりした顔で目を糸のようにさせて隆二は僕に甘えるように寄りかかる。
「僕の家にくると毎日冷蔵庫にプリンがあるよ」
「えっ」
「家の中暖かいよ、夏は涼しいよ、キッチンが広いから君の得意な料理を作り放題だよ?」
「……」
そして最後にそっと耳元をくすぐるような声で。
「毎日気持ちいい事があるよ?」
僕は顔を赤くしながらも思わず唾をごくんと飲み込んでしまった。
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