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「はいはい。それでは、へっぽこ探偵の依頼主に、もう一つ重要な報告があります」
重要というわりに、探偵さんの声音は、のんびりとしたもので、終始一貫、緊張感のかけらもない。
「なんだ?」
「ヤッコさん本人に、動きがありました」
息を飲むような、課長の気配。
一瞬にしてその場に、緊張が走る。
「――それで?」
「長期滞在予定で、ここに、来てますよ、あの御仁」
「ここって、このホテルにか?」
驚いたように、質問する課長の声のトーンが、少しだけ上がる。
「ええ。昨夜遅く、向かいの部屋に入りました。それも、とても美しい随員付きで。彼女は、最近入った秘書課の新人の子ですね」
「社長に、あれだけ釘を刺されておいて、まだ懲りないのか?」
「それで懲りるような人間なら、周りも君も、苦労はしないでしょう?」
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