§14 ウェディングドレスと4月の雨

4/23
前へ
/200ページ
次へ
 大きな紙袋を抱えた穂積くんは18時過ぎに帰ってきた。 「本当に帰るのか?」 「うん。スーツも着替えも何もないし」  その紙袋の中に入っていたニットのワンピースに着替えて私は玄関に立った。 「じゃあ送る」 「いい」 「社用車だし、もし自宅に入れなかったらまたここに来るんだろ?」 「そうね。送っていって」  社用車に乗って自宅に向かう。 「昨夜言ったこと、本当に考えろよ」 「うん。ありがとう」 「周りが何と言おうと俺は本気だから」 「うん……」  夕方の通勤時、道は混んでいる。信号待ちでサイドブレーキを引いては穂積くんは私にキスをする。甘いキス。恋人が別れを惜しむようせ切ないキス。 「穂積くん、ほら青」 「ああ」  そんな切なく甘い時間もいつまでもは続かない。マンションに着いて、私は穂積くんとキスをする。助手席から身を乗り出して、穂積くんの左腕にしがみついて。離れたくない。でも離れないと、と唇を離すと穂積くんは追いかけてくる。数分キスを続けて、ようやく離れた。 「じゃあ」 「うん」  私は助手席を降りて、社用車を見送った。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加