832人が本棚に入れています
本棚に追加
大きな紙袋を抱えた穂積くんは18時過ぎに帰ってきた。
「本当に帰るのか?」
「うん。スーツも着替えも何もないし」
その紙袋の中に入っていたニットのワンピースに着替えて私は玄関に立った。
「じゃあ送る」
「いい」
「社用車だし、もし自宅に入れなかったらまたここに来るんだろ?」
「そうね。送っていって」
社用車に乗って自宅に向かう。
「昨夜言ったこと、本当に考えろよ」
「うん。ありがとう」
「周りが何と言おうと俺は本気だから」
「うん……」
夕方の通勤時、道は混んでいる。信号待ちでサイドブレーキを引いては穂積くんは私にキスをする。甘いキス。恋人が別れを惜しむようせ切ないキス。
「穂積くん、ほら青」
「ああ」
そんな切なく甘い時間もいつまでもは続かない。マンションに着いて、私は穂積くんとキスをする。助手席から身を乗り出して、穂積くんの左腕にしがみついて。離れたくない。でも離れないと、と唇を離すと穂積くんは追いかけてくる。数分キスを続けて、ようやく離れた。
「じゃあ」
「うん」
私は助手席を降りて、社用車を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!