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社用車のブレーキランプが見えなくなるまで駐車場にいて、私はマンションのエントランスに入った。
「あ……」
私は瞬時に凍り付いた。そこにはコートを着てスーツケースを抱えている男性がいたから。幹太。
「……ただいま」
「随分と見せつけてくれるね、君」
眉間にしわを寄せて私を睨み付ける。
「俺のこと散々けなしておいて、君もイイコトしてるんじゃないか」
「……お互いさまでしょ」
「ああ、そうだね。話し合う必要も無いみたいだし、良かったよ」
幹太はそう言ってエレベーターのボタンを押す。扉が開き、私も一緒に乗り込んだ。2人で回数表示の赤いデジタルを見つめる。ものの数秒なのに何分にも感じた。箱の中の重たい空気。胃のあたりがズシリとする。扉が開いて、自宅に戻る。
部屋は少し散らかっていた。ゴミ箱には空き缶とコンビニ弁当の空き箱、ペットボトルがまとめて入っていた。キッチンに入り、置きっぱなしのグラスや皿を洗い、冷凍庫から使えそうな食材を取り出す。
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