§14 ウェディングドレスと4月の雨

5/23
前へ
/200ページ
次へ
 社用車のブレーキランプが見えなくなるまで駐車場にいて、私はマンションのエントランスに入った。 「あ……」  私は瞬時に凍り付いた。そこにはコートを着てスーツケースを抱えている男性がいたから。幹太。 「……ただいま」 「随分と見せつけてくれるね、君」  眉間にしわを寄せて私を睨み付ける。 「俺のこと散々けなしておいて、君もイイコトしてるんじゃないか」 「……お互いさまでしょ」 「ああ、そうだね。話し合う必要も無いみたいだし、良かったよ」  幹太はそう言ってエレベーターのボタンを押す。扉が開き、私も一緒に乗り込んだ。2人で回数表示の赤いデジタルを見つめる。ものの数秒なのに何分にも感じた。箱の中の重たい空気。胃のあたりがズシリとする。扉が開いて、自宅に戻る。  部屋は少し散らかっていた。ゴミ箱には空き缶とコンビニ弁当の空き箱、ペットボトルがまとめて入っていた。キッチンに入り、置きっぱなしのグラスや皿を洗い、冷凍庫から使えそうな食材を取り出す。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加