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もう、引き際なんだと思った。
私は数日掛けて荷物をまとめた。そして役所から離婚届をもらい、自分の名前を記入していく。まだ転居先も決めていなかったけれど、もう一緒には暮らせないと判断したから。
間もなく3月、春の気配を感じる。とある週末、私は荷物を持って玄関に向かった。幹太はソファに寝転んだまま、見送りもしない。
「じゃあ」
「……」
返事もない幹太に言葉を掛けて私は玄関を出た。そしてエレベーターに向かう。不動産屋を何軒かハシゴしたけれど、それなりにいいと思った物件は4月にならないと空きが出ず、私はしばらくの間ウィークリーマンションに泊まることにした。勿論、穂積くんには内緒だ。自宅を出たと知れば、私を迎えに来ると思ったから。一度、穂積くんの部屋で暮らし始めたら二度と出られない気がした。私はもう、心に決めていた。幹太とも穂積くんとも別れよう、って。私は結婚に向いていない。結婚失格者の烙印を背負って生きていくしかないって。
タクシーで本社近くのウィークリーマンションに向かう。重たいスーツケースを持ち上げて階段で2階に運ぶ。6畳の狭い部屋に戸棚やベッドが置かれていて、すぐに生活を始められるようになっていた。
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