§14 ウェディングドレスと4月の雨

8/23
前へ
/200ページ
次へ
「今日からよろしくね」  誰もいない部屋に向かって挨拶した。静かな部屋、明るい空間。ひとりで生活するのは何年振りだろう。幹太と同棲を始めたときから何年経つだろう。大して量もない荷物を整理した。  荷物を片付けて、私はスマホを取り出した。そして電話を掛ける。相手は優子。 「もしもし神辺です」 「神辺……センパイですかあ? 何か」 「会いたいんだけど、時間作れる?」 「はい、今からでいいですか?」 「ええ構わないわ。あのカフェでいい? うちの会社の近くの」 「じゃあ1時間後で」  私は通話を切ってウィークリーマンションを出た。カフェはすぐそこ。早めに行って席を確保していた。  優子と話をしたかった。これまでのこと、これからのこと。そして優子の気持ちも確認しておきたかった。そんなのは私の一方的な押し付けで、優子は聞きたくも話したくもないだろう。でも私はケジメを付けたかった。 「こんにちはセンパイ」 「こんにちは。ありがとう優子」 「不倫相手にお礼ですか? 意味わかんない。お人好しですね、相変わらず」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

832人が本棚に入れています
本棚に追加