832人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなことをして何になるんだろう。着飾った姿を穂積くんに見せて、それだけ。
1時間ほどして車は海岸沿いの県道を走っていた。海は曇り空を映して、濁った群青色。右手には坂、その中腹に研修施設も見える。そこを通り過ぎて、正面に十字架が見えた。白壁の古びた教会。手前にある空いたスペースに車は止まった。
「そういえば研修施設から十字架だけ見えたね。ここだったんだ」
「ああ。行こう」
穂積くんは運転席から下りると助手席側に回り込み、ドアを開けた。そして右手を差し出して私をエスコートする。
「ほら」
「……うん」
右足を地面に置いて、手を引かれて立ち上がる。ふわりと揺れる裾、曇天といえど空からの光を受けてキラリと光るサテン地。憧れのウェディングドレス。見上げれば穂積くんの顔。
穂積くんに手を引かれて教会の扉に続く階段を上る。右半分だけ開かれた重厚な木製の扉、そこから中を覗いた。
最初のコメントを投稿しよう!