§14 ウェディングドレスと4月の雨

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「誰もいないみたいだな」 「うん」  私と穂積くんは恐る恐る、中に入った。明かりもついておらず、正面十字架の向こうの天窓から僅かに光が射し込む。ゆっくり足を進める。軋む床、背後の扉から聞こえる風の音。穂積くんは私の手をぎゅうと握りしめた。  十字架の前に来る。逆光のそれは黒く私の視界にのしかかり、気持ちを重苦しくさせた。 「汝、健やかななるときも病めるときも……って言うんだっけ?」 「そうね」 「誓います」 「え、ちょっとはしょり過ぎてる」 「いいだろ。誓うのかよ誓わないのかよ」 「はいはい、誓います誓います」  重い十字架に怖くなって私は茶化して返事をした。すると穂積くんは私の肩をぐいと引いて、横に向かせた。 「愛してる」 「穂積く……」  近づく穂積くんの顔。私は目をつむる。誓いのキス。軽く触れてすぐに離れた。
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