§14 ウェディングドレスと4月の雨

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 このところ雄弁だった穂積くんは無言だった。初めて会ったときと同じ、無愛想に海を眺めて。水平線は徐々に濁りだした。沖合は降っているんだろう。 「アンタさ、なんだかんだ言って旦那のこと好きだろ?」 「えっ?」 「違うか?」  唐突に言われて私は戸惑った。 「何故あんな人……。浮気して開き直って平気で私を傷つけて」 「ほら、そういうところ」 「だから」 「本当に嫌いだったら、そんな風に怒ったりしないだろ。怒るのは期待してる裏返しだと思うぜ」  ポツリ。こめかみのあたりに冷たいものが当たった。 「あ、雨」 「降り出したか」 「うん。え……?」  視界が暗くなる。顔に何かが押し付けられた。背中に回るのは大きな手。穂積くんに抱き締められていた。 「穂積くん?」 「黙れよ」 「ねえ、苦し……」  ぎゅっときつく、きつく抱き締められて、息も苦しい。穂積くんの胸を腕で押し返すけどびくともしない。抱き締められている間も頭や肩に雨粒が当たる。春とはいえ、まだまだ冷たい。
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