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朝、カーテンの隙間から明かりが部屋の中を覗く。まるで闇に居る者に手を差し出しているような…
ピピピッピピピッ…カシャン
だけど私にはそんな手を差し出してくれる者などいやしない。そして、私自身もそれに応えるつもりはない
目覚まし時計を止めた翼は顔を洗いに洗面所へと向かった
そして、いい匂いに釣られたかのようにリビングに足を運ぶ
「母様、お早うございます」
「お早う、翼さん。もう起きたのね。
待って、もうすぐ朝食が出来るから」
「はい、いつもすみません」
「あら、いいのよ」
母様はそう言って、柔らかな笑みを向けた。この方は私の実の母ではない。
けれど、我が子のように親しくしてくれている
「そうだわ、カツミさんも一緒に食べるかしら?」
カツミとは宍原カツミの事を差し、そして私の実の父であり宍原組の組長である
確か、父様は昨日夜遅くまで組の事で何かしていたようだから……もう少し寝かしてあげた方がいいだろう
「父様は昨日夜遅くまで起きてらしたので、もう少しだけ寝かしてあげては」
「そうね。もう少しだけ寝かしてあげましょうか」
母様も父様の仕事を知っているからか、あっさりとしている
普通の女性ならば、こうはいかないだろう。さすが、父様が選んだ方だと思う
「そうそう、翼さん」
「はい、なんでしょう」
母様は柔らかな笑みをしたまま、私に話かけた
「今日からよね?新しい学校に行くのって」
「はい、そうです」
“新しい学校”…今日から緑ヶ原学園へと通う事になった
私は母様が作ってくれた朝食を食べ終えてから、学校の支度をする
……ここまでなら、他の人と同じように思える
だが、玄関を一歩出れば………
「いってらっしゃいまし、お嬢!!」
「行ってくる」
外に出れば何十人という人達が玄関から門へと続く一本道を作っていた
頭を下げているから誰が誰だから知らない。けれど彼らは私を知っている
“八代目を継ぐ者”として──…
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