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「シエナ、いるか?」
銀嶺館3階。オレ以外誰もいない廊下に響くのは、ノックの音の余韻だけ。
返事はなしか。
「腹減っただろ。晩飯作ってきたんだ。いっしょに食わないか」
「……いらない。あとで自分で作って食べる」
ようやく返ってきたのは弱々しい声。
扉越し。顔も見えない。
自分自身の不安も相まって、腰が引けそうになる。
けど、そんなこと言ってる場合じゃないよな。
腹にグッと力を込めて、努めて明るく会話を続ける。
「なんだよ、もったいないな。腹減ってなかったのか」
「お腹は空いてるわよ」
「なんだ、じゃあ入るぞ」
「あ!? ちょっと待ちなさ──」
右手に銀のトレイを掲げ、左手一本で扉を開ける。
シエナはベッドに寝ころんでいた。
帯はその辺に投げ捨てられ、羽織っただけになった浴衣から黒い水着姿が惜しげもなく晒されている。
「脱いだらちゃんと片付けとけって、いつも言ってるだろ」
「部屋に押し入ってきといて、言うことはそれ?」
「お前の水着姿くらい見慣れてるっての」
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