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鍵を開け、扉に手をかける。
大きくひとつ深呼吸。のどにある違和感を飲み下す。
「ただい────いや、まあいいか」
どうせ意味なんてないんだし。
入ってすぐ。右手奥。みんなで食事をとった机がある。料理を作ったキッチンがある。
けど、そこには誰もいない。何の温度も感じさせない。
階段を上る。
古びた木材の軋む音だけを響かせながら、一段一段踏みしめて上ってく。
それでも、三階まですぐにたどり着いてしまう。
重い足を無理やり持ち上げ、右手側へ。
303と書かれたプレートのかかった自分の部屋を素通りし、その隣部屋の前に立つ。
手を伸ばし、けど躊躇う。
左隣の302はシエナの部屋だ。そして、反対側のこっちの部屋は──
「女の子の部屋へ勝手に入るのは感心しないな」
「…………イロさん」
尻尾みたいに束ねられた長い金髪がサラリと揺れて、コートのように羽織った白衣がひるがえる。
背中越しにかけられたらのは、有無を言わせない声だった。
「少し顔を貸してもらおうか」
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