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音が弾ける。
王冠が光を頂いて、溢れた力は鍔迫り合いを押し切った。
けど、勝ったのは単純な力比べだけだ。
押し負ける瞬間、イロさんは全身で後ろに跳んで、力のすべてを受け流す。何も言わないまま、黙ってすべてを受け止める。
「こんなに弱いくせに! 力押ししかできないくせに! 借り物の力で強くなった気になって! 何でも出来る気になって! 結局何もできてない!!」
ぬかるむ地面を踏みしめる。濡れた草花を踏み越える。一直線に。ただがむしゃらに。
止まらない。止められない。
「なんでノエルはオレなんかを──」
キン、と。
硬く澄んだ音ひとつ。
手元がスッと軽くなる。切り落とされた刀身が、雨粒を弾いて飛んでいく。
「それ以上は言うべきじゃない」
端的に、鋭く。喉元に突きつけられる抜き身の刃。
「分かっているだろう?」
当たり前だ。分かってる。分かりきってる。
けど。だけど──
もはや王冠は光を湛えない。柄だけになった剣が垂れ下がった腕から滑り落ち、水を跳ね上げ足を濡らした。
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