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降り出した雨は勢いを増し続け、耳を打つ音も激しさを増していく。
けど、今はそれでいい。
その音だけが、横たわる沈黙をごまかしてくれる。
その雨だけが、言葉にならずに零れたものを、なかったことにしてくれる。
「…………まったく。上手くいかないものだな」
ふと、寂しげな笑みが目の前にあった。剣の野原が、陽炎のように消えていく。
「慰めの言葉は届かない。気遣いなんて意味がない。ならばせめて、怒って、怒鳴って、ケンカでもして、吐き出させるくらいはできるかと思ったんだが、ワタシではそれすら役者不足か」
これでも保護者代わりだったのにな。
そう漏らしたイロさんの顔は、雨の向こうに消えていた。
背を向けたまま、手だけがヒラヒラと別れを告げる。
「だから────あとは2人でちゃんと話し合いなさい」
ふ……たり?
首を傾げるそのオレに、
「──シロウ?」
降りしきる雨の音。吹き抜ける風の音。周りのすべてを切り裂いて、名を呼ぶ声は耳へと届いた。
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