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「………………あの娘、何か言ってた?」
「……お前をよろしくってさ」
「ッ──そっか」
シエナがその場に腰を落とす。濡れた地面も気にせずに。それどころか、魔力障壁すら解除して。
袖を揺らした赤い浴衣が、2つに結ばれた長い髪が、途端に雨に濡れていく。
「おい、風邪ひくぞ」
「あんただって、そうじゃない」
「オレは、もう手遅れだからさ」
「だったら、あたしもいい」
……そうかい。
オレも並んで腰を落とす。
シエナの視線が向かう先。降りつのる雨に遮られ何も見えない草原の彼方を、ただ黙って見つめ続ける。
「あの娘はさ、昔から、あたしの心配ばっかりしてくれてたの」
小さな、小さな声だった。ひどく弱い声だった。
「いつも謝られてたわ。自分のせいで戦わせてごめんなさい、自分だけ何もできなくてごめんなさい、って。そんなことない。何もできないのは、あたしの方だったのに」
「あいつのために、彩色片を集めてたんだろ」
「それだけよ! たったそれだけなのよ! 何年も、何年もかかったわ! 結局、あたしだけじゃ集めきれなかったわ! あんなの、魔力の暴走に苦しんでたあの娘に比べたら、苦労でも何でもない!!」
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