2923人が本棚に入れています
本棚に追加
高まる声は、けれどすぼまる。シエナは小さく身じろぎひとつ。膝を抱えて、顔をうずめる。
「だから、あの娘があんたにケンカをふっかけるのを見たときは、ちょっとだけ嬉しかったの。それと同じくらい、あの娘にワガママを言ってもらえるあんたが羨ましかったの」
「そういや、初めて会った時は包丁で切りかかられたんだったな」
ほんの2ヶ月ほど前のはずなのに、ずいぶん懐かしく感じるもんだ。
ずっと一緒にいたから。色んな意味で近くにいたから。そう感じるんだろう。
けど、今はもう誰もいない。
すぐ隣に座ってるはずのシエナでさえ、今はもう遠い。
「あんたと一緒にいて、あの娘はよく怒るようになった。よく笑うようになった。あたしのことだけじゃなくて、自分のことも考えてくれるようになった。──そう思ってたのに」
声が震える。肩が揺れる。丸くなる背中は小さくて、どこかに消えてしまいそうで。
引き寄せられるように手を伸ばし──
グッと、拳を握ってその手を止める。
最初のコメントを投稿しよう!