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景色が揺らぐ。
歪む光は像を成し、人の姿が現れる。
小柄な体躯に、色の読めない無表情。白の剣を握るのは、おそらく光を操って姿を消していたウルスだ。
けど、声の主はそっちじゃない。オレをクロウなんて呼ぶのは、1人しかいない。
ウルスと共に現れたもうひとり。小型の青い盾を軽々と持ち上げて、肩にかつぐその人は、
「……オッチャン?」
「よお、クロウ。赤の嬢ちゃんも。2人揃ってこんなところまで出てきてくれて助かったぞ」
青いあごひげに手をやりながら、きっぷよく笑うのは、ニノの父親。商店街にある肉屋のオッチャンだった。
「なんで──」
「ああ、そうだ。まずはこいつを渡しておくか」
左手が振られ、小さな光が弧を描いて飛んでくる。
受け止めたのは反射的にだった。
握った手をゆっくり開く。
「これッ、ノエルの──!?」
青の結晶。その首飾り。
ノエルのためにシエナが戦い続けてきた証。
オッチャンは、笑顔で告げる。
「そいつだけはキレイに残ってたんでな。形見にはちょうどいいだろ」
平然と。いつも通り。世間話でもするように、気軽に話すその背には、魔力で編まれた青の翼が広がってた。
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