【足りない日々】

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 深い闇の中だった。  銃撃音と破砕音、そして獣の咆哮が響き渡る。  夜の帳が上がらない、月明かりすらない常夜の世界。降りしきる雨音が、鳴り止まない雷鳴が、うるさい。 「シロウ、合わせて! 赤の書2章3節【炎柱(フレア・ピラー)】!!」  炎が世界を照らし出す。地面を濡らす雨すら切り裂き、炎の柱が光を灯す。  現れるのは黒い虎。全身は厚い鎧で覆われ、硬い防御が見て取れる。  だってのに、動きも素早い。  登る炎に反応し、身をひねってかわしやがった。  けど、そこまでは想定内だ! 「無の書3番!」  踏み込む。駆け出す。  拳を握って魔力を集め、虎の鼻先に走り込む。 「【魔弾(バレット)】!!」  直撃。  振り抜いた一撃が鎧を砕く。  吹き飛ぶ黒の空白獣。 「これで終わりよ!」  轟く銃声。  空中に身を打ち上げられ、鎧を失った虎に防ぐすべはなかった。  パキンと何かが割れるような音が、雨音の中に小さく混じった。
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