【足りない日々】

9/25
前へ
/384ページ
次へ
 図星。  心の奥底を言い当てられ、驚きの声を漏らすこともできない。 「キミにとってシエナは、強くてカッコいい女の子だろうからな」 「……そうですよ」  オレがシエナを助けることもあった。クリスと戦ったときなんかは、その最たる例だ。  けど、違う。そういうことじゃないんだ。  クリスのときにしたって、あいつの心は折れちゃいなかった。  オレの隣で支えてくれた。なんでもない風に平然と笑ってくれた。  シエナはいつも凛として、炎みたいに強くて。  だからこそオレは── 「シエナは普通の女の子だよ。いや、少し寂しがり屋だな。あの子の強さは、誰かがいるからこそだ。意地を張っているだけなんだよ」  優しい眼差しがオレを見つめる。 「男なら、こんなときこそ一緒にいてあげなさい」 「──分かりましたよ」  ああ、そうだ。助けてもらうばかりは主義じゃない。  今すべきなのは、シエナに代わってノエルを見つけることじゃない。  もらった分はキッチリ返す。  支えてもらったら支え返して、オレとシエナでノエルを見つけだすんだ。 「ワタクシのことも忘れてもらっては困りますわよ」 「ボクもね」  おっと、そうだったな。  尊大な笑みと挑むような笑顔に笑い返す。  みんなでノエルを見つけるために。  オレはもう一度階上を見上げた。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2923人が本棚に入れています
本棚に追加