第1章

2/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「だったらなぜこの学校に入ったの?」 と、よく聞かれる。 答えてもいいけれど、僕にそういう人たちは、大抵僕に答えを求めていなくて。 勝手に自分の中で、僕が答えるであろう回答を作り上げている。 だからそう聞かれたとき、僕はほとんど場合、応えることなく笑ってみせることにしている。 そんな人たちとは別に。 世の中には親切な人が大勢いて、優しい人も多くて、僕の困った癖に根気よく付き合ってくれる。 ほら、今もまた。 「椎くん、ご飯食べた?」 「実習で」 「食堂はいかないの?」 「実習であれだけ食べて、まだ食べるんだ?」 「どうせなら、美味しいものが食べたいじゃない」 「だからそんだけ細いままなんだよ」 「カリカリだと、抱きしめたら小骨刺さるぞ」 ぽんぽんと、皆交互に肩や背を叩きながら、さりげなく僕を誘導して食堂に向かう。 実習の同じ班のメンバー。 専門学校の同級生たちの中でも、特に仲の良い人たち。 「さっきの実習で足りない栄養素って何?」 「ん?」 「椎くん、お腹すいてないんだったら、足りない栄養素の入ったもの、一個でいいから食べなよ」 「ああ、それいい!」 「おにぎりでもサンドイッチでもいいからさ」 「わたし、揚げ物食べたい」 「自分の話かい!」 優しい人たち。 押し付けることのないその優しさに、この1年半の間ホントに助けられてきた。 実習は好きだ。 ちょっとした実験みたいで、実は楽しい。 包丁をひたすら研ぐのも、面白かった。 山盛りのカツラ剥きもフードプロセッサ使おうよっていうみじん切りも、僕は割と好きだ。 細かい作業が嫌いじゃないからだと思う。 座学も、嫌いじゃない。 栄養学や生物学は、かえって楽しいくらいだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!