第1章

3/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
だけど。 僕は食に興味がない。 調理専門学校に通っているっていうのに、だ。 正確に言うと、自分が生きるために食べること、に、興味がないんだけど。 美味しい食べものは、美味しいと思う。 けれど誰かと食べるならともかく、身体を維持するために、義務的に食物を摂取するのは、なんていうか…どうでもいい。 だから、僕はよく聞かれる。 「どうして、この学校に通っているの?」 と。 簡単なこと。 自分が食べるのは好きじゃなくても、人に食べさせるのは好きなんだ。 ただのインスタント食品に、ものすごく喜んでくれた人を知っている。 あの時の気分は悪くなかった。 あんな風に喜んでもらえるなら、将来的に、人に食べ物を提供する側に回ってみてもいいかな、と思ったんだ。 この学校に通っている人たちは、ほとんどが食に対して積極的で、僕は圧倒されることが多いけれど。 もうすぐ、卒業。 いろんなん資格を取る時期が始まる。 就職に備えて、みんな、ぴりぴりしてくるだろう。 そうなったときにまた、僕はついていけなくなるかもしれないけれど。 でも。 「ほら、椎くん、行くよ」 「椎に肉を食わせる会とか、どうよ?」 「僕じゃなくて、自分が食べたいんでしょう?」 「オレ今、サーモンな気分」 ついていけなくて離れても、この人たちのことは、きっと好ましく思ったままだと思う。 少しは、食に興味がもてるかもしれないと、思わせてくれた人たちだから。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!