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季節は夏。蝉の声がやたらと鳴り響く住宅街を俺は歩いていた。
「あちぃ……」
手でぱたぱたと扇ぐが、依然として暑いまま。まだ木陰があるからいいものの、大通りを抜けなければ目的の場所にはつかない。大通りには日を遮るものがないのだ。
大通りに出た。蝉の声に変わり今度はエンジン音が耳に響く。今は何時だろうか。
信号が赤であることを確認し、携帯を鞄から取り出す。8時15分。少し余裕がない。
青になった。携帯を鞄にしまいつつ小走りになる。うまく入らない。
その時の俺は周りを見ていなかった。
だからだろう。曲がった車がスピードを出し、俺に向かっていたことに気づかなかったのは。
鈍い痛みが全身に広まりやがて、俺は意識を手放した。
「汝、掲げし信条を答えよ」
気づくとそこは空だった。
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