始まりは乗用車

2/23
前へ
/31ページ
次へ
季節は夏。蝉の声がやたらと鳴り響く住宅街を俺は歩いていた。 「あちぃ……」 手でぱたぱたと扇ぐが、依然として暑いまま。まだ木陰があるからいいものの、大通りを抜けなければ目的の場所にはつかない。大通りには日を遮るものがないのだ。 大通りに出た。蝉の声に変わり今度はエンジン音が耳に響く。今は何時だろうか。 信号が赤であることを確認し、携帯を鞄から取り出す。8時15分。少し余裕がない。 青になった。携帯を鞄にしまいつつ小走りになる。うまく入らない。 その時の俺は周りを見ていなかった。 だからだろう。曲がった車がスピードを出し、俺に向かっていたことに気づかなかったのは。 鈍い痛みが全身に広まりやがて、俺は意識を手放した。 「汝、掲げし信条を答えよ」 気づくとそこは空だった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加