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1.夜が明けました。
まっ赤な夕陽のなかだろうか。
それは酷く断片的で、わたしの胸を、ぎゅっ、としめ付けた。
ひらけた丘の途中を、わたしは、どこまでもかけ降りる。
まるで、見えない翼に包まれているような、とてもあたたかくって、やさしい気持ち。その、確かなひと欠片を抱きしめながら。
丘の上に仰ぎ見るのは、水色の大きな車。中腹に通り過ぎるのは、小さくてもあこがれだった、緑の屋根のかわいいお家。
そこに何があったのか、もう、わからないけれど……、
わたしは、本当は、丘をくだった先へ行きたかった。
だけど、気づいた時には、わたしは、まったく違う世界を見ていたんだ。
遠い、遠い、記憶の中で……。
――そうして、わたしは、眼をあけた。
ほわほわとあたたかな、ベッドの中だった。
ぼんやりとした意識の中で、わたしは、胸のおくでくすぶり続ける、熱い何かを感じていた。
部屋の中はもう、薄っすらと明るくなっていて……、ああ、朝なんだなぁ、って。
夢を、見ていたような気がする。
何か、なつかしくって、やさしい夢。
わたしは、ベッドから躯を起こして、すぐ左側の窓からそとを見た。山なみのずっと向こうでは、薄むらさきに濡れた霧のような雲がとけて、空がほんのりと、白銀みたいに輝いていた。
「ふあ~!」と、眼を擦りながら伸びをする。背中にある翼も一緒に、ぐぐぐ、と両側へ広げると、その翼端が直接、冷たい窓ガラスに触れた。
――カーテン。閉め忘れて、眠っちゃったんだ……。
ひと息吐き出すと、急に身震いがして、わたしはベッドから飛び出した。
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