初詣

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ぼくが西川をきらいな理由。 自分の価値観以外の価値観が、世の中に存在していることに気付いていないところ。 自分のものさしで測れないものを、理解しようとしないところ。 西川は、ぼくのことを、よくわからないバケモノとでもおもっているはずだ。 そして、いま。 酒を飲んで、おおいに酔っ払ている西川の持論は、ことごとく、ぼくの神経をさかなでていた。 だいたい、寒いし! 「笹本さんって、男としかやらないんですかあ?」 西川は、歩道橋の手すりを背に立っている。 顔は暗がりでよく見えない。 「そんなことないよ」 ぼくは、ベンチに座っていた。 「ええ、じゃあ両方いけるってやつなんですねえ、うわー、信じられね、どっちとやるほうが気持ちいいとかあります?」 いますぐ、西川の価値観を崩してしまいたい。 そう、ぼくも酔っ払っていたのだ。 なにかいろいろ言っている西川の前へ行き、左手を手すりに、右手であごをとらえる。 「西川って下の名前なんだっけ?」 ぼくよりも、西川は背が低い。 「……セイジ、です」 見下ろした顔は、蒼白。 「セイジくん、」 引きつった表情からは、先ほどまでの饒舌さの気配もない。 「…試してみる?」 そのまま唇まで1cmほど。 のところで、ぼくは我にかえった。 雅さんの「貞操観念ない」のくだりを思い出したのだ。 ぼくの操は清らかとはいかないが、西川ごときにくれてやるつもりはない。 話せばあたたかい息がかかる距離、固まった瞳がすぐ近くにある。 「でもごめん…ぼくにも好みはあるから」 西川には、その狭い価値観がお似合いだ。
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