愚策のはじまり(聡希)

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 とにかく、忘れよう。たった一回会っただけ。  そこから、恋が発展する可能性は、ほとんどない。  帰り支度をし、教室を出ようとしたとき、入口付近に女子生徒がひとり立っていた。  コイツは……確か、物理の時間に、ノートを見せてくれた女……【笹倉みずめ】とかいう名前だったか……。 「あ、物理の時間は、ノートありがと」 「いえ……そんな……」 「何してるの?」 「姉を、待ってるんです」 「お姉さん……? ここの学校?」 「1コ上なんです」 「あ、そう……」  なんだ、オレのことを待っていたのかと思って、焦ってしまった。 「あ、お姉ちゃん」  彼女が声をかけたほうを振り向くオレ。  ーえ……? マジかー  オレを実験室まで案内してくれた、あのお姉さまが、そこにいた。  思わず、声をかけそうになったが、ふと、あのときの声を思い出した。  ー黙っててよね、あたしがここにいたことー  あのとき、あそこで会ったことは、だれにも言ってはならない。  むこうも、オレのことを忘れているのか、なんのリアクションもない。 「悪いね、みずめ……遅くなって」 「いいけど、べつに……でも、あたしまで握手会行くのって、おかしくない?」 「まぁ、まぁ……旅は道連れ……って、ことで」 「意味わかんない」  オレを残して、行ってしまう姉と妹。  いったい、だれの握手会なのか不明だが……。  それにしても、この偶然は奇跡に近い。  まずは、この妹と接触して、オレへの好感度を上げさせる。それを、姉にさりげなく伝えてもらえばお姉さんのほうも、オレを意識してくれるはず。  安易な考えかもしれないが、この状況を利用しない手はない。  妹には悪いが、オレの恋愛成就のための、囮(おとり)になってもらう。
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