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紅:
べに。または、くれない。前者ならば「珊瑚(の産卵)」が季題となり俳句の、後者ならば季節と恋を詠んだ旋頭歌片歌の体を成す。
俳句とした場合下句が「ベニサンゴ」となるが、ここでは宝石珊瑚として珍重される固有の種を特定するものではないとする。あくまでも色としての紅を想起すべし。中句「燃ゆ」と相互示唆。
珊瑚:
この句では原則的に、造礁珊瑚を指す。即ち、熱帯域沿岸浅瀬に生息、褐虫藻との共生により外骨格を形成かつ栄養を補給、無性生殖による増殖と有性生殖による産卵かつ放精、等々をする雌雄同体の諸種。
昨今の温暖化による珊瑚群体の白化現象と壊死が生態系保持の必要から問題視されているが、これは共生する褐虫藻が高温に弱いため。この高温耐性の低さ、また受精卵を大潮に乗せ広く拡散する目的から、造礁珊瑚の産卵・放精は北半球では9月下旬秋分後の満月夜半一斉に行われる(余談ながら、南半球では3月下旬秋分後の満月を機に、キリスト教最大の典礼儀式である復活祭が営まれるのと時節を同じくして始まる)。
珊瑚個体の卵と精子は膜で共に包まれており、バンドル(英:bundle=塊・束・包、等の意)と称されるカプセル状の粒子として各群体が一斉放出する。このバンドルは専らの種で淡紅色を帯びているため、潮に乗り浮上すると夜間の赤潮と見紛うほど、海中が文字通り紅に染まる。
ところで、ベニサンゴを始めとする深海性宝石珊瑚もバンドルによる生殖を行うので、この句の「珊瑚」に該当し得る。が、これらの種の幾つかについて雌雄異体であることが最近判明しながら一斉産卵・放精の詳細は不明、また産卵期も夏期なので必ずしも句想とは一致しないかも知れない。下句「紅」は「珊瑚」との複合名詞ではなく、むしろそれぞれが独立し合った名詞と解釈すべきか。
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