少し昔の話のほんの少しの断片

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少し昔の話のほんの少しの断片

 雨は嫌いじゃない――今も昔も。蛙か蝸牛にシンパシーを覚えるかもしれない、雨が降って蒸し暑くさえなければそれを良い天気だと思う。快晴も嫌いではないのだけれども。  だが、今は雨が降ってると嫌な事を思い出すようになった。目を反らしたくて仕方ないのだけど――大切なモノを失くした時の過去だ。 「……あぁ、寝てた」  意識にスイッチが入ると同時に濡れた窓とそれを叩く雨の音が響いてきていた。どうやら雷様も機嫌が良いようで稲妻と雷鳴を気前よく振りまいていた。  雷が降っているのもあの時と同じだった。  僕はあの時の事を一生、忘れることはないだろう。  僕には憎悪する者がいる。多分、復讐すれば憂さ晴らしになるのは確かだ。だが、ソイツの存在を差し引いても失くしたのはやはり僕の過ちだ。  
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