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ドクンッ
まただ。どんよりとしたモノの気配を陰から感じる。
気配のする方へ目線をやると、そこにはつい先日通り魔があった路地。
警察が張ったのであろう黄色いテープがまだ残ったままだ。そこから黒く淀んだ気配が僕を引き寄せる。
僕はそこから目をそらすことが出来ず、金縛りにあったかのように動けずにいた。
「おい、みえるのかい?」
その声で路地から目線を動かすことのできるようになった僕は、自分の後ろに顔を向けた。声を掛けてきたのはこの人だろう。
もう一度先程の路地に目を向けると、さっき感じた気配は消えていた。
「何も…みてない。」
知らない間に汗をかいていたらしく、僕の額にはじっとりとしていた。その汗を拭いながら、ポツリと発した言葉は自分が思っていた以上に震えていた。
「ウソを言わなくてもいい。俺もみえるんだ。」
…え?
「本当に?アレがみえるの?」
穴が開くのではないかと思われるくらい僕は目の前の男の人を見つめた。
黒い髪に茶色い瞳。黒縁メガネをかけた長身の男の人は、優しい笑みを浮かべ僕の頭に手を乗せてくる。
「あぁ。辛いかい?みえるのは?」
そりゃ辛いに決まっている。アレを理解してくれる人なんて今まで周りにはいなかった。
「…まぁね。」
小さく笑った僕を見て、男の人の顔は優しい笑みから悲しそうな笑みに変わった。あれ…なんで悲しそうな顔しているの?
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