第1章

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「アレはなんだったのですか?とても怖かった。」 今まで出会った中で、一番怖いと思った。いつの間にか震えていた手を反対の手で押さえた。僕が震えていたことに気付いたのか、誠さんは足を止め、僕の方に振り返りまた頭の上に手を乗せ今度は撫でてきた。 「アレは…そうだな、悲しみの念とでも言っておくか。今は気にしなくてもいい。言っただろう?彼方がアレと向き合えるようになるまで守ってやるって。今は学生生活を楽しめ。」 アレについて詳しくは教えてくれないのか。それに学生生活を楽しめと言われても本当に楽しめるのか僕は不安でたまらない。楽しく遊んでいても友達に紛れて現れるヤツもいる。僕が無視していても友達に怪我をさせたり悪戯したり。そんなことが起こるのに楽しく暮らせるのだろうか。 「大丈夫だ。そのお守りを持っていれば、今は普通の生活を送れる。」 誠さんは安心しろというような顔で僕のことを見つめる。しかし安心する事よりも僕は誠さんが言った言葉の意味を考える。『普通に』という事は、この先もアレと向き合わずに何も気にせず生活していけば。という事だろう。 「もし…もし僕がアレと向き合おうと決めたら?」 その言葉で誠さんはニヤリと悪戯っ子のように笑った。
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