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「貴様、初日から遅刻するとはいい度胸してんじゃねーか、あ?!」
翌日、朝8時。真守はアイシクルロッジのスクール受付に集合した。
時間通りにここに来たはずだ、何も悪いことをしていない。
しかし、フォーメーション滑走を取り仕切る磐梯は、烈火のごとく怒っていた。反論しようものなら、さらに怒られることになるだろうと思い、真守はしおらしい態度をとるしかなかった。
聞けば、昨日深夜からの降雪で、スクール宿舎の前に雪が積もってしまったため、そういう場合インストラクターには玄関前の雪かきが義務付けられており、真守がその作業に参加しなかったことを怒っている、ということだった。
聞かされていないことでこんなに怒られるのは理不尽だ、と反論したかったが、真守は言葉を飲み込んだ。
自分はペンションの所属であり、6時に起きて宿前の雪かきと配膳の仕事を終えてから来ているのだ。フォーメーションのメンバーになったとはいえ、スクールのメンバーになったわけではない。
しかし、真守は何も言わずにその言葉を聞いていた。
「では!山頂に集合!トレイン練習だ!」
一頻り罵声を浴びせられた後、磐梯の号令でインストラクターたちが一斉にスキー板を履き、早朝のゲレンデを滑り降りて、山頂行きのリフトを目指した。
20人ほどのスキーヤー集団が山頂に到着する。その面々には孝次郎、そして華純も混じっていた。
やがて磐梯が到着すると、再び号令をかける。
「では諸君!今回の年末も頼むぞ!その前に、一ノ瀬の代わりにメンバーになった雪原、自己紹介だ!」
「え…あ、あ…はい!」
磐梯とその他のスキーヤーが1対19に並んだとたん、振られた真守は狼狽しながらも一歩前に出、キックターンで18人のほうを向いた。
「青峰大学スキークラブ、ディアマント、ペンション雪月花所属、ゆきは…。」
と、その時。
後方から背中に硬いもので叩かれる衝撃に見舞われた。
「貴様!挨拶の時は帽子とゴーグルを取れぇっ!」
磐梯が真守の背中をストックで叩いたのだった。
「は、はい!…すみません。」
言われるがままニットとゴーグルを取り、自己紹介をやり直す真守を、他の面々は真剣な表情で見つめていた。ただ一人の者を除いては。
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