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晴れ渡る、春の空の下。
“歓迎!新入生!!”という文言や、サークルの名前が書かれた旗やノボリが立ち並び、学生たちがしきりに、それぞれの勧誘文句を声高に叫んでは、道行く者たちにチラシを渡している。
大学の春の風物詩的光景ではあるが、ここまでの喧騒を生んでしまうと、歩きづらくて敵わない。
と、2年生の雪原真守(ゆきはら まもる)はそう感じていた。
少し早歩き気味に人のジャングルを進む彼に、2年生だということが分かるものが付いている訳ではない。ゆえに、真守は新入生と間違えられてはチラシを手渡されたり勧誘の言葉を受けたりしながら、何とか自分の身体を前に進めていた。
古びた校舎の入り口付近に、自分の所属するサークルのブースがあるはずである。
そこに辿り着くのに、さっきから四苦八苦しているというわけだ。
「Too late!!遅いわよ、マモル!」
ようやくその場所に辿り着くなり浴びせられた言葉は、同級生からの叱責だった。
「悪い…!ちょっと、学校混みすぎでさ…新入生と間違えられることが多くて。」
「Shut up!イイワケは聞きません。アンタ去年入学してんだから、新歓の時期にガッコがこんな状態になるって分かってんでしょ?だったらちょっと早めに起きるとか、電車早めるとかしなさいよ。」
「…うっ。」
「Do you understand!?」
「い、イエス…アイ、ドゥー…。」
その剣幕に、押されるように後ずさりする真守。彼を叱っていたのは同期の夜間瀬華純(よませ かすみ)である。綺麗な黒髪は腰あたりまで伸びていて、ときおり春の風に揺れる。
顔つきは純日本人ではあるが英語混じりの話し方。これは彼女が高校卒業まで、親の仕事の都合でハワイに住んでいたからだった。
発音の良い生の英語が、感嘆詞を含む言葉を発するときに口から出るようである。
「行き当たりばったりで起きるから遅刻する。で、行き当たりばったりで滑るから、点数も伸び悩むんじゃないの?アンタの総滑。」
「…それは今は関係ないだろ。俺だっていろいろと…。」
「No kidding!どんな斜面でも、どんな変化があっても、エレガントに滑降するのが総合滑降、って言われたでしょ?つまりは、私生活がlooseなヤツは滑りもlooseなのよん。」
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