六騎士の伝説

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「そこまで言うことねーだろ、ったく…去年雪を見たのも初めてだったくせに。」 「それこそ関係ないでしょ。」 「分かったから、俺たちも早く勧誘しようぜ?」 「あーーっ!今アンタ絶対私のことめんどくさいと思ったでしょ!?」 「うっせーな!いいからチラシ配れ!」 「No way…!?」 両の手のひらを上に向け、大げさに肩をすくめて見せる。その後も、聴き取れないくらいの小さな英語で、ブツブツと呟いては真守をチラチラと見ていた。 入学式の直後。 桜の花の散る中、校舎に続く道の両脇に長椅子と長机が立ち並び、新入生対象にサークルの特色を説明したり、それが書かれたチラシを配る、そんな光景が其処此処に広がっている。 『青春しようぜ!!君ならできる!!』と爽やかに言いながら、ラケットを振り回すテニスサークルの学生しかり、 『新しいこと始めるなら、今でしょ!』と、某有名塾講師のマネをしながら、相対する新入生を笑わせている落語研究会の学生しかり。 各サークルは少しでも新入生を獲得しようと躍起になっていた。 都内の、市街地から少し離れたここ、青峰大学には、100を超えるサークルや同好会が存在する。 昔から、スポーツ校としてのイメージが強く、サッカーや野球の部門ではプロや実業団選手を数多く輩出している。 陸上においてもここ20年間、箱根駅伝の出場シード権を獲得し続けているということである。 真守のいるサークルのブース。机には、 『青峰大学スキークラブ ディアマント』 と書かれた横断幕が張られている。 机の後ろには、先輩やOBたちから拝借したスキー板やゴーグルが即席壁にくっつけられ、まるでスポーツ用品店のように展開されている。 今日は真守と華純が朝の勧誘当番、ということだった。 2人はチラシを配っては机に案内し、サークルの楽しい出来事をタブレットに入っている写真や動画を交えて紹介し、少しでも興味を持ったら名前と電話番号をノートに書いてもらう、というサイクルで勧誘を続けていた。 「Very good!今年の1年生は素直でイイわね。」 華純の言葉の示すとおり、勧誘を受けてくれた1年生のほとんどはノートに名前と連絡先を記入してくれた。 しかし、真守はそれと同時に“ノートに書きさえすれば解放される”とでも思っていそうな不特定多数の浮かない表情を、見抜いていた。
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