六騎士の伝説

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21世紀に入ってから、バブル期の80年代後半に起こった全国的なスキーブームは衰退の一途を辿っていると言われ続けていたが、真守は父親とスキーに行く機会が多かった。 降り積もった白銀の粉を蹴散らすように、スキーヤーたちが斜面を滑り降りてくる。 父親に教えてもらいながら過ごしていて、たいていの斜度のゲレンデは転ばずに滑り切ることができていたので、真守は自分ではスキーが上手いと思っていた。 しかし、昨年このスキーサークル “ディアマント”に入った瞬間、彼は衝撃を受けることとなったのだった。 1年前の4月。つまり真守が1年生のときに行われた新歓合宿の出来事である。 ディアマントでは毎年ゴールデンウィーク前に、入部してくる新入生を集めて春スキー合宿をするのだ。 夜行バスに揺られている最中、真守は親から買ってもらったスキー道具一式を持参したことを隣に座った同級生に鼻息荒く説明した。 勧誘を受けたときは、『スキーをやったことのない初心者がほとんどだ。』と聞かされていたので、自分が多少滑れるという話をしたら先輩連中は嬉々としていた。 ところが、ゲレンデに到着してイザ、自分のスキー板をケースから出して披露すると、先輩は苦笑いを浮かべこう言った。 「ほぉ~…、う~ん…、これは、…かなり古い板だねぇ。」 新入生を相手にしている手前、遠慮気味に先輩が言っていることを、真守は何と無く察していた。 そして分かりやすく言えば、 『そんな古い板で多少滑れるとかヌカしてんじゃねーよ』 という意味だった、ということはその後の飲み会で知ることとなる。 古い板では、古い技術でしか滑れない、という宣告を受けたのだ。 父親世代がスキーを楽しんでいた時代には無かった、“カービングスキー”という種類のスキー板が、君の滑りを古くしているのだ、と。 さらに、その合宿で出会ったのが、今、横にいる華純。 彼女は4月終わりの新歓合宿にて、生涯初めて雪というものを見た。 ハワイ育ちであったため(それもオアフ島のホノルルから出たことがない)、スキーをする機会など全くなく、ゲレンデを染めている白の色に感動する様子を周囲に惜しげも無く披露していた。
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