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「センパイ!スゲーっす!カッケーっす!やっぱセンパイはとんでもない人だったんだぁ…!」
「……、マモルさん、スゲーです。」
「マモル先輩!凄かったです!」
ペンションの中の和室で、初滑走合宿の打ち上げが行われていた。話題は、真守の躍進一色であった。1年生の3人が、ドカドカと押しかけるように周りに座り賞賛を述べていることに、真守の気分は高揚していた。
しかし、猫魔には何もお礼を言えなかった。
あの後、真守たちはゲレンデにつけた規制線や旗門を片付ける作業を行なっていた。
その間に猫魔は帰ってしまったということを、聡から聞かされたのだった。
社会人って、大変なんだな。
そう思いながらも、してもし足りない礼を言いそびれたので、真守は聡から猫魔の連絡先を聞いた。
後日必ず、会ってお礼を言わなければと心に誓った。
「この調子で、大晦日もガンバってくださいっス!!」
圭介が真守にビールを渡しながら言うと、その言葉にハルが反応を示した。
「大晦日って…何かあるの?」
ハルは今季、玉原と同じ宿へアルバイトに行っているため、このスキー場の名物である松明滑走のことは知らなかった。
圭介は、事の経緯を懇切丁寧に、少しばかり脚色しながら説明した。
「ええ~!!そうなんですか~!…あ~あ…、見てみたかったなぁ…。」
「ハルちゃん、明日赤虎戻るの?」
残念そうに言うハルに、圭介が質問する。ハルは首を縦に振った。ちなみに赤虎、というのが玉原とハルのバイト先があるスキー場で、黄竜スキー場のある山のちょうど反対側に位置している。
「あ~あ、マモルセンパイの出る松明滑走見れないなんて…。」
悔しがるハルを見て、真守は苦笑する。
「はは、…まぁ、俺はただのピンチヒッターだから。」
「でも…、でも綺麗でロマンチックなんですよねぇ、…うう~。」
「あ、じゃあハルちゃん、大晦日こっちに来なよ!ロマンチックになろうぜ!」
圭介が軽いノリで言うと、ハルは露骨に顔をしかめた。
「やだぁ、何でアンタとロマンチックになんないといけないの?」
「…うへ…、センパイ、僕、今フラれました!」
「…知らねーよ。」
「あっ!ヒドイ!センパイまで!こうなったら僕、泣きますよ!」
かなり酒が入っているのか、圭介の声はどんどん大きくなっていった。
そんな彼をあやすように、真守は肩を叩いた。
そのやりとりを見つめるジトッとした視線には、気づくことはなかった。
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