第1章

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リビングで母親と話していたのは、従兄のゆきちゃん――恭行――だった。 ウチの親戚筋の中でも、一際気難しいこの従兄がウチに来るなんて…っていうか、自分から出歩いてるなんて珍しい。 こっちから声をかけても大抵は『気が向いたらね』の一言で、バッサリ切られてしまうのに。 ああ、自分の気が向いたから、出てきたのか。 母親が席を立ったのに変わって、リビングのソファに座る。 「どうしたの、珍しい」 「何が?」 「一人で家に来ることって、まずないじゃない」 「そうだっけ?」 にこにこと笑いながら小首をかしげるしぐさを見せる。 自然に出てくる幼いしぐさ。 俺より4つは上の筈だからもう30歳になろうかってのに。 浮世離れ度は俺の周辺でぴか一のこの従兄は、全然その辺を感じさせない。 「嵩史、あなた、今夜は何も予定なかったわよね?」 台所で作業をしていた母親が、少し声を張っていう。 「ああ、ないけど、それが?」 「ゆきちゃん、車の運転の練習したいんだって。付き合ってあげてよ」 「は?ゆきちゃん、免許持ってたっけ?」 浮世離れしてるから、持ってないと思い込んでた。 「持ってるよ。ゴールド」 さらりと笑ってそういう従兄に、嫌な予感がする。
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