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リビングで母親と話していたのは、従兄のゆきちゃん――恭行――だった。
ウチの親戚筋の中でも、一際気難しいこの従兄がウチに来るなんて…っていうか、自分から出歩いてるなんて珍しい。
こっちから声をかけても大抵は『気が向いたらね』の一言で、バッサリ切られてしまうのに。
ああ、自分の気が向いたから、出てきたのか。
母親が席を立ったのに変わって、リビングのソファに座る。
「どうしたの、珍しい」
「何が?」
「一人で家に来ることって、まずないじゃない」
「そうだっけ?」
にこにこと笑いながら小首をかしげるしぐさを見せる。
自然に出てくる幼いしぐさ。
俺より4つは上の筈だからもう30歳になろうかってのに。
浮世離れ度は俺の周辺でぴか一のこの従兄は、全然その辺を感じさせない。
「嵩史、あなた、今夜は何も予定なかったわよね?」
台所で作業をしていた母親が、少し声を張っていう。
「ああ、ないけど、それが?」
「ゆきちゃん、車の運転の練習したいんだって。付き合ってあげてよ」
「は?ゆきちゃん、免許持ってたっけ?」
浮世離れしてるから、持ってないと思い込んでた。
「持ってるよ。ゴールド」
さらりと笑ってそういう従兄に、嫌な予感がする。
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