スタンド バイ ミー

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朝方、来客受付とほぼ同じ時間に篠田が来た。 正直、失恋から立ち直る時間くらいは欲しかった。 それが無理なら、痩せ我慢でも笑う心の準備をしたかった。 こんなに早く顔をあわせたら、困らせる事を承知で、想いを告げたい衝動にかられるじゃないか。 心中の葛藤を悟られないように、笑顔を浮かべて篠田を迎える。 一晩たって、起きあがれるくらいには身体は回復した。 この気持ちだって、ちゃんとおさめられる。 篠田の幸せを、隣で見守っていけるくらいに。 そう思っていたとき、ベッドサイドの椅子に腰掛けるかと思っていた篠田が、ベッドに腰を降ろしたのをみて首をかしげた。 どうしたと訊ねようとして、あわさった篠田の目に吸い寄せられる。 俺の魂まで見通そうとするかのような想いのこもった深い眼差し。 言葉も発せられず、ただ見詰めかえす。 そんな風に見詰められたら、忘れようと決心した気持ちに再度火がつきそうだ。 伸びてきた篠田の手を避けることなどできずに、受け入れる。 両の頬を包まれて、コツンと額をあわされた。 「良かった。」 ただそれだけ呟いて、ギュッと抱き締められる。 昨日と同じく。悲鳴をあげた俺に、看護師さんがまた飛んできた。 こっぴどく叱られた篠田は、退院後は自分の家に帰る事を俺に約束させてから、満足気に病室を後にした。 いくらなんでも失恋相手と同居する気はなかったが、仔犬のようにうちひしがれた眼差しでみつめられて根負けしてしまった。 こんな事が何度かあったような気がするが、思い当たらずモヤモヤする。 それに、その日の応診で明日には退院してもよいと言われてしまった。 早くても一週間はあると思っていたのに。 不安げな俺に、記憶を取り戻すには、なるべく元の生活に早く戻ったほうがよいのよ。といつもの看護師に微笑まれた。
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