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案内された部屋に、ドサリと音を立てて荷物を置いて、ため息をついた。
退院後、篠田にまっすぐに家につれてこられた。
ベッドに腰掛けて、案内された部屋をグルリと見回す。
半年以上、ここで生活していたらしいがちっとも落ち着かない。
馴染みがないというか、、、本当にこの部屋で生活していたのか?
まだ、先に案内されたリビングの方が落ち着いた気がする。
でも、あっちには篠田がいる。
昨日の今日で、二人きりですごすのは今の湊には酷すぎた。
俯きそうになる自分を感じて、グッと腹に力を入れる。
パチンと、両手で頬を叩いて気合いを入れた。
明後日からは休ませて貰っていた会社も始まる。
まったく覚えてない仕事内容にも不安が募るが、一切覚えていない分、逆に一から頑張ろうと思いきれた。
早く今の生活に慣れて、一人で生活できるようにならなければ。
その時、控え目なノックの音が聞こえて篠田が顔をだした。
「夕飯。出来たけど、食べられそうか?」
頷くと、真っ黒なエプロンをつけた篠田が、俺の手を引いた。
手をひかなければならないほどの怪我ではないのだが。
けれど、つながれた手を振りほどくこともできず、篠田の後を追ってリビングにむかった。
途中、篠田の指にはめられた指輪がペカリと光った気がする。
戸惑いを抱えたまま向かい合って食事をすることに迷いはあるが、ここで断る方が不自然だ。
重い気持ちで席についた湊は、甲斐甲斐しく世話を焼く篠田に呆気にとられた。
お前は新妻か。
若干あきれながら、食事の準備を進める嬉しげな篠田を眺める。
何度か手伝おうとしたが、ことごとく篠田に断られた。
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