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あそこまで世話を焼かれたら、普通は相手の女が嫌がらないか?
そう思った時に、ハタと気がついた。
あの指輪の相手は、何処にいるのか。
見たところ、それなりに長くはめられている様子なのに、この家には相手の気配がない。
いや、そもそも。そんな相手がいるのに何故、自分が此処にすんでいたのか。
たどり着いた結論に、まさかという想いで固まる。
準備を終えて、席についた篠田が不思議そうな顔で此方をみていたが、それどころではない。
もしかして。と、
まさか。という気持ちが混ざりあって、動揺がおさまらない。
結局、せっかく作ってくれた食事もあまり食べられず。
疲れているからと、早々に席をたった。
自室にこもり頭を抱える。
つい願望から、自分が相手かと思ったりもしたが、もしかすると既に指輪の相手とわかれているという可能性もある。
傷心の篠田をほっておけずに、同居したとか?
自分と篠田が付き合っているという話よりも、まだ信憑性のある思い付きに一人頷いて、落ち込む。
その場合、相手はともかく篠田はまだ未練があるということだ。
そこまで考えた所で、何気なく開けた机の引き出しにリングケースを見つけた。
心臓が、ドキンとなった。
震える手で拾いあげて、ドキドキしながら開くと、篠田のデザインと瓜二つの指輪がおさまっている。
つまみ上げてみると、女ものにしてはサイズが大きすぎ、見慣れた自分の指にあうようにおもえる。
おもわず左の薬指に、そっとあてがった。
スルスルと輪が滑り、まるでそこがあるべき場所だとでも言いたげに、指環が湊の指に誇らしげに耀いていた。
何度も瞬きを繰り返し、掲げた指をみつめた。
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